神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
「このヘタレ大河!さっさと押し倒しちゃいなさいよ!!」
立ち上がったと同時に叫んだ言葉は、はずみなんかじゃない。
死ぬ準備を終えてしまったあの子に、
もう一度生きる意味を与えることができるのは、大河以外に誰がいるのだろう。
「……つい今しがた、我慢しろって言われたばっかなんだけど?」
めずらしく、大河が不快な顔をしてみせる。
なんてったって、今の今まで散々高橋に言いたい放題言われてきたのだ。
“いい加減にしてくれ!”
と、叫びたいのを、なんとかその程度で抑える。
ただ、加奈子にしてみれば、そんなことは知ったこっちゃないのだ。
「高橋先生なんて35にもなって結婚どころか彼女もいないのよ!あ~んな医者やってんのが趣味みたいな変人の言うことなんか聞いてたら、梨佳ちゃん他のオトコに取られちゃうんだからっ!!」
「伊藤さんだって、彼氏いないじゃん」
「あたしはいいのよ!まだ平均結婚年齢以下なんだからっ!!」
「ははっ、“まだ”って年でもじゃねぇじゃん」
「なぁああんですってえっ!?」
こうなると、もうお互いただの八つ当たりだ。
バシッ!!
加奈子は、手に持っていた書類を大河に叩きつけると、背後に感じた気配に勢いよく振り返り、声を上げた。
「梨佳ちゃんっ!!」
「はっ…はいっ!?…っていうか、なっ、何やってんの?二人とも」
いつの間にか、検査室から出てきた梨佳と検査技師が唖然と立ちつくしている。
「やっぱ、え~っと、ほらっ!誰だっけ?告ってきたコ、その子と付き合っちゃえっ!」
「えええ~!?」
「それと隣のハゲ!これ検査に頼まれてわざわざ持ってきた書類だから、拾っといてよ!」
そう言うが早いか、加奈子は最後に大河をひとにらみすると、
「同じクラスの男子らしいわよ?」
そう言い残し、全力疾走でその場を去った。
数枚の書類を踏み潰しながら。