神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
*★*―――――*★*

・・・・・・
17時30分
電車で帰宅中(座位)
・・・・・・

ホルター心電図の行動記録には、こう続けられた。

・・・・・・
大河が口きいてくんない
超コワイ
・・・・・・

大河は、運よく空いていた席に梨佳だけ座らせると、
他の人間の視線から梨佳を隠すようにその前に立つ。

電車内はかなり混み合っていたけれど、
おかげで、これくらいのメモは取ることができた。


それから15分。

車窓に流れる景色を見つめたまま、大河は梨佳をチラリとも見ようとしない。

そんな幼馴染の様子を、上目づかいで盗み見ながら、
梨佳は小さくため息をついた。


「“超コワイ”って、行動記録に書くか?普通…」

「……ぁ、」


ふいに頭上から降ってきた声に慌てて顔を上げたものの、
すでに大河の視線は出口のドアに向けられている。

車内アナウンスが降車の駅名を告げる。

大河は当たり前のように梨佳の手を取ると、溢れる人波を少しやり過ごした後でホームに降りた。
自分の後影に梨佳を入れ、盾になりながら構内を抜ける。


「…大河……、あのね、聞いて、大河っ……」

「なに?」


音もたてず立ち止り、真正面に梨佳を見つめる大河に、
梨佳は、何かを言いかけて、その言葉を飲んだ。

日も暮れて、あたりはすっかり夜に覆われている。
駅前の薄暗い街頭と月明かりだけが、二人を照らす。


「……告られた?」

「…ぅ、ん、そぅ…だけど、ちゃんと断ったし、…」

「じゃあ俺は?…返事、まだだよね」

「……」


ザアッ……

風が梨佳の髪を巻き上げる。

春は、ほんの数週間前まで雪がちらついていた季節だ。
日が暮れればまだかなり冷える。

でも、この小刻みに震える指先は寒さのせいじゃない。

“つきあえない”

その、たった6文字を、今日まで何度飲み込んだだろう。


「…(大河…、ごめ…)」


のどの奥に言葉が引っかかって声にならない。

二人で取り残された、音の消えた世界……

そこに、少し低めの大河の声が響く。


「…ゴメン、カンジ悪いよな……」


――なんで、大河があやまるの?


梨佳は、必死に首を横に振る。

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