神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
「…違う。そうじゃない、…ちがう……」
深くうなだれた梨佳の白い首筋が、月影に浮かび上がる。
と、突然、
ふわり……
なにか暖かいものが、梨佳の頭上に舞い落ちた。
あったかくて、いいにおい。
大河のにおい。
サーモンピンクのストールが、包み込むように梨佳の頬をくすぐる。
「梨佳はさ、免疫抑制剤飲んでんだろ?風邪でもひいたら入院じゃん。もっと気をつけな?」
言葉の端がさっきまでとは違う。
ストールの隙間から不安げに見上げると、そこにはいつもの大河がいた。
両手を制服のポケットに入れて、肩をすくめながら、やわらかに笑う。
「帰ろっか」
行く先の見えない薄暗い世界の中で、
大河にだけ帯びる色彩。
込み上げる愛しさに、絶望しながら、
梨佳はその過保護ぶりに、戸惑いがちに微笑みをかえす。
一瞬、大河の呼吸が止まった。
「……好きだよ、梨佳」
――大河……
隠している特別な気持ちも、
何もかも、
全部、全部、
大河の、その瞳に見透かされてしまいそうな気がして、
怖くて……
咄嗟に距離を取ろうと梨佳が後ろに下がると、
首に掛けられたストールごと、大河は梨佳を引き寄せた。
大河の髪が梨佳の頬に触れる。
ゆっくりと……
当たり前のように、唇が触れた。