神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
休み時間にごとに訪れる、見世物のような居心地の悪さをどうにかやり過ごすと、
ついに午前の授業が終了した。
今日は昨日装着したホルタ―心電図を外しに病院まで行かなくてはいけない。
“今日も病院についてくるなら、駅で待ち合わせ”
と、今朝あんなに約束したはずなのに、大河は当たり前のように教室まで梨佳を迎えに来た。
空気がどよめき、揺れる。
簡単に誤解は解けそうもない。
そもそも、大河に解く気がまるでない。
「…ワザとやってるしょう、大河」
「当たり前じゃん…」
そう、呟くと、大河はゆっくりと辺りを見回した。
ザワついていた教室から、一瞬息をのむ気配がして、そのあと、嘘みたいに音が消える。
初めてみる、大河の威圧感。
「まあ、ここらへんでちゃんと、俺の存在を知らしめとかないと?」
と、誰に向かってか、釘を刺す。
「行こっか、梨佳」
振り返った大河は、姿かたちは何も変わっていないはずなのに、もう梨佳の知っている大河じゃなかった。
その表情に、昨夜の姿が重なる。
沈めたはずの感情が、いっきに浮上して、あふれだす。
――どおしよう…、もぉ、ダメだ…、どおしよう……
大河は梨佳の細い右手首をつかむと、手を引いて歩きだす。
ぐらつく気持が、梨佳の足元をふらつかせる。
太くなった腕は、梨佳が振り払ったぐらいでは、きっともうビクともしない。
目の前の広い背中。
見上げる背丈。
あふれ出る感情を、梨佳は何度も掻き集めては仕舞い込むけれど、
でも、もう元通りにはならない。
――もう、幼なじみじゃない…
「たい…が……、大河…」
泣きそうな梨佳の声に、その男は校門を出たところで、ようやく立ち止まる。
少し照れくさそうに笑いながら振り返ると、ゆっくり真正面に梨佳を見つめた。
「……梨佳、ごめんね」
そんな彼に子供のころの面影を垣間見て、ホッとしながら、
でも、今、確実に、
幼なじみ以外の存在になってしまった、その姿。
今、はじめて、梨佳は本当の大河を見ている気がしていた。