神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
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雨の日の満員電車は湿度が高めで息苦しかった。
大河は出入り口近くに梨佳を立たせると、ドアに両手をついた。
人ごみから梨佳をかばうように立つ。
空気を伝わってくる大河の体温。
今が間違いなく現実であることを感じて、梨佳はひと時、安心する。
夢の中で、もう一つの人生を生きているかのようなリアリティ。
目覚めた後、しばらくはどちらが現実なのか夢なのか、よくわからなくなるのだ。
あまりの疲労感にベッドの上動けないままでいると、時間と共に、大河が迎えに来ることを思い出す。
それでようやく、こちらが現実なのだと理解する。
“梨佳”と、大河に呼ばれて、なんとか“凪紗”ではない事を再確認する毎日。
――眠るのが怖い。
ますます削られていく睡眠時間が、昼間の睡眠を誘う。
梨佳は必死に睡魔に抗うが、睡眠は人間の生理的欲求の1つだ。
意思だけでどうにかなるものじゃない。
ほんの少しでも気を抜くと、心臓の記憶は、いとも簡単に易々と、梨佳の心を支配する。
最近は白昼夢も増えた。
悪循環だ。
駅に到着すると、学生で賑わう改札口を抜ける。
ロータリーからまっすぐ伸びる通学路に、カラフルな色の傘の花が咲いていた。
「おはよう梨佳ちゃん!…それと、おはようございます、楠原先輩っ!」
由紀が駅前で梨佳と大河の姿を見つけると、うれしそうに駆けてきた。
「おはよう、山峰さん」
「おはよう、由紀ちゃん。下濡れてるから滑るよ?危ないよ?」
「ヘーキ、平気!さ、行こかぁ!」
こんなふうに3人で登校するようになって、今日でちょうど1週間が過ぎた。
大河と楽しげに話す由紀を見ていると、梨佳は素直によかったと思う。