神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
入院生活が長かった梨佳にとって、クラスメイトとのコミュニケーションは、なかなかハードルの高いものだった。
入学式後は、あっという間に女子のグループができる。
すっかり出遅れてしまった梨佳は、慣れない学校生活でうまく周囲に溶け込むことが難しかった。
そんな時、気安く話しかけてくれたのが由紀だった。
“みんなね、声かけにくいのよ。梨佳ちゃん美人さんだから”
そう艶やかに笑う、由紀のほうがよほど美人だと梨佳は思ったけれど、
それから由紀は、休み時間ごとに梨佳に話しかけるようになった。
由紀の周りには自然と人の輪ができる。
気付けば、梨佳は一人ではなくなっていた。
自分の病気の事を知らない、初めての友達。
“楠原先輩とはね、中学校が同じで、そのころからず~っと憧れてたの”
ある日の昼休み、渡り廊下にいる大河を見つけて、うれしそうに話す由紀を見て、
大河が自分以外の人間にどのように思われているのかを目の当たりにした。
大河を好きな女の子。
そして、梨佳が初めて出会った、自分の知らない大河を知っている女の子。
――時々、どう接していいかわからなくなる時がある…
実際、大河と幼なじみだという事実も、どう対応していいのかわからなかった。
内緒にしていたわけではないが、結果は似たようなものだった。
由紀は笑って許してくれたけれど、それは由紀の人間性によるところだという事くらい、梨佳だってわかる。
「…あれ?」
一緒に歩いていたはずの二人の姿がない。
いつも人を待たせることが自分にも、こんなこともあるのかと、梨佳は驚いて振り返る。
ドクン…っ
心臓の拍動が一瞬ズレた。
――大河が笑ってる…
咄嗟に、前に向きなおり、並んで歩く二人から視線を外す。
そう、こんなときこそ、どんな態度で接したらいいのだろう。
梨佳は、今まで知る事のなかった自分の感情の、取り扱い方がわからない。
徐々に近づく二人の足音を聞きながら、梨佳は動きを止めた足を恨めしげに見つめる。
視界の端に入り込む、自分を置き去りにして進む学生の波を見送りながら、
――いつまで、一緒に歩いていくことができるのだろう。
梨佳はそう嘆き、悲しみが零れて、気づかれてしまわないように、小さく息を飲みこんだ。
「梨佳?」
「梨佳ちゃん?」
直ぐ後ろまでに近づいた二人の声に促され、梨佳は笑顔で振り返る。
「二人とも何話してるの?私より遅いって、大概だからね、遅刻しちゃうよ?」
大河に作り笑いが見破られる前に、すぐさま前を見て、また歩き出す。
並んで歩く二人の姿が、目に焼き付いて離れない。
高校で初めてできた、大切な女友達は、少しだけ梨佳を悲しくさせた。