神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
*★*―――――*★*
「……あぁ~、駅で待ち合わせって、約束だったのにぃ…」
「寝こけて約束の時間に来なかったのは、梨佳だろ」
午後の外来というのは、午前の一般診療と違って予約がメインだ。
退院後の経過を診るためだったり、病気の定期受診なんかがほとんどで、午前中の混雑ぶりが嘘のように静かな空間。
聞こえてくるのは、診察室に患者を呼び込む声くらい。
そんな中、ため息交じりに梨佳の声が控えめに響いた。
「ぁああ~、だって、だって……」
“最近、寝不足なんだもん”
そう言いかけて、梨佳は言葉を飲み込む。
「だって、何だよ」
「何でもないです」
そんなこと言ったら、
この心配性の幼なじみは、もっと過保護になるに違いない。
退院してもう2週間にもなるのに、たかが定期検診に学校を早退してまでついてくる。
そして、今日の大騒ぎだ。
「なんだよ、言えよ」
「言わないもんっ!」
そんな二人のやり取りを、一人の看護師が中待合室から覗いていた。
伊藤加奈子(イトウカナコ)だ。
「相変わらず仲がいいわねぇ~」
「え?加奈子さん、うそ!どおして外来にいるの?」
「4月からここに配属が変わったのよ~」
「じゃあ、受診の時には会えるんだ!すごい!」
物心ついたころから入院を余儀なくされた梨佳が、姉のように慕ってきた看護師。
彼女に会えるのなら、週1回の受診も悪くないと思う。
「お邪魔するようで、本っ当に悪いんだけど、診察室へどうぞぉ~」
促されるままに診察室の扉をあけると、窓から差し込む暖かな春の木漏れ日の中に、
見た目大学生のような若い医者がニヤニヤ笑いながら座っている。
「大河ぁ~お前ねぇ、時と場所を考えようよ?ヤだね~思春期ってぇ」
実のところは35歳。
この童顔の医者、高橋直人(たかはしなおと)がまだ研修医だったころ、
最初に受け持ったのが当時9歳で小学3年の梨佳と大河だった。