神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?

瞬時に自分の形が照らし出される。

倒れてしまわないように咄嗟にそうしたのか。

電柱に背中を預けてどうにか立っていることに、大河自身が気づくと、

あっという間に世界が戻ってきた。

雨霧の先に、心配そうに自分を覗きこむ梨佳が見える。


「……梨佳…ちゃん」

「あはは…、なんか大河が“梨佳ちゃん”なんて、久しぶり」


僕を、見つけてくれた女の子。

居場所をくれた、女の子。


大河は、縋るように梨佳に手を伸ばし、抱き寄せる。


「急に、いなくなるから、驚いた」

「うん。ごめんね」

「…っていうか、走るなよ。こっちの心臓のほうが止まるわ」

「あは、大河ってばうまいこと言うね」


二人とも見事にずぶ濡れだ。

雨を吸った制服がずしりと重い。

聞きたいことは山のようにあるけれど、大河が本当に確認したいことはひとつだけだった。


「…何を、隠してる?梨佳」

「……バレてたか」


梨佳の悪戯っぽい口調に、大河が、ふと笑う。

そして、抱きしめる腕に力を込める。

雨が二人の間に入り込む隙間もないほどに、
こんなに近くにいるのに、今まで過ごしてきた、どの瞬間よりずっと遠い。

お互いが、そう感じていた。

一度振りほどいた手は、そう簡単には元には戻らない。


「ごめんね…、大河」

「隠し事って、なに?」

「つきあえない」

「他に好きな人でもできた?」

「違う」


梨佳は言い切って、そっと瞳を閉じる。

降りしきる雨が、体温だけでなく感情の熱量をも奪っていく。

大河の心臓の音を聞きながら、自分でも驚くほど冷静に、梨佳は嘘をつく。


「好きなのは、大河だけ」


大河につく、最初で最後の本気の嘘。

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