神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
「大河くんのバカ!」
大きな窓から差し込む、オレンジ色の夕焼け。
それが逆光になって一瞬よく見えなかったけれど、しばらくして目が慣れてくれば、
車椅子に座った女の子のそばに、学生服を着た一人の男の子が立っているのがわかった。
「…じゃあね、梨佳ちゃん。また金曜日に来るから」
「……さよなら。大河くん」
机の上に顔を伏せたまま、そっけなく答えたのは、あの優等生の梨佳だ。
あっけに取られて、デイルームの入り口に立ちすくむ加奈子の横を、その男の子が通り過ぎると、慌てて梨佳が顔を上げて、こちらを見つめた。
大きな瞳に溢れんばかりの涙を浮かべて、あの梨佳が泣いている。
加奈子の存在に気づくと、ぎくりと体を身じろがせ、顔を真っ赤染めあげて視線を逸らした。
――ああ、そっか、あの男の子の事が好きなんだな……
加奈子の中で、人形から14歳の少女へと、梨佳のイメージが変わった瞬間だった。
「…ねえ、いいの?呼んで来てあげよっか?」
梨佳は、涙をぽろぽろ落としながら、無言で首を横に振り続ける。
後で先輩看護師にきいてみると、“大河のことを知らなかったのか”と、少し馬鹿にされてしまったが、その看護師もたいして知っているわけではなかった。
同級生なのかと思ったら、小学校も中学校も違う。
梨佳が始めて入院することになった小学3年生の時、隣の部屋に入院していた男の子らしかった。
ただ、もう6年近くも、ほぼ毎週面会に来ているのだというのを聞いたときには、加奈子もさすがに頭が下がった。
それからは、なんだか気になってデイルームを覗くようになった。
すると、曜日も回数も決まっていなかったが、結構な頻度で梨佳と大河に会う。
無視するのもなんなので、邪魔にならない程度に時々話しぐらいはする。
「何してんの?」
「あれ?加奈子さん、今日はもう帰り?」
「……」
大河の思いっきり迷惑そうな顔が、加奈子にはおかしくて仕方がない。