神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?

「また来る、梨佳」

「……さよなら、大河」


それは、2人が分かれる際に、ずっと繰り返されてきた言葉。

“さよなら”は、他の友達たちと同様に、いつか大河が来なくなることへの、覚悟だったのか。

それとも、いつか自分がいなくなることへの、覚悟だったのか。

梨佳は、決して“またね”と言ったことはなかった。

“またね”は明日へと続く未来への言葉。

かたくなに未来を信じようとしない梨佳の代わりに、大河が梨佳の手をとり、ほどけないように握り締める。

大河の“またね”はつづく。

梨佳にも未来が訪れることを証明するかのように、その後も大河は梨佳に会いに来続けた。

大河は未来。

加奈子が記憶しているなかで、梨佳が“また”と、言ったのはたった1回だけだ。


「……また…ね、大河……」


大河の肩が、ほんの少しだけ揺れて、すぐさま答えた。


「…うん…またね、梨佳……」


心臓移植が決まった日。

雪の舞う、美しい2月の午後だった。

手術室へ続く直前の廊下。

梨佳の冷たい手を、大河はどんな気持ちで握っていたのだろう…

梨佳が微笑む。

大河を安心させるように、幸せそうに笑う。

本気で“またね”を信じていたのかどうか、梨佳にしかわからないけれど、

その笑顔を、加奈子はきっと生涯忘れないと思った。


だから……


「梨佳…ちゃん…?」


目の前にいる、この女の子を見て、

やはり、見間違いなんかじゃかったと、加奈子は確信するのだ。

< 57 / 62 >

この作品をシェア

pagetop