神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
厳密に、心臓移植の選択基準は選定されているし、一人の医師の意見でどうこうできるものじゃない。
移植の優先順位から梨佳が外されていたとして、次は泉美だったかどうかわからない。
それでも、心臓移植を受けた梨佳は、泉美に対して負い目を感じ続けていた…
……はず、…なのだ。
だから高橋も、梨佳の変化から目を離さない。
その視線を感じたのか、梨佳がゆっくりと高橋を見つめ返す。
加奈子はその二人の様子に呼吸を止めた。
「昨日、あれから大河に会えた?」
高橋が沈黙を破る。
「うん」
さらに、数秒の沈黙。
「……そっか、ならいいんだ」
それ以上、高橋は何も聞かなかった。
というより、梨佳の眼差しがそれ以上聞くことを許さなかった。
梨佳が診察室を出て行く姿を無言で見送ると、高橋と加奈子はお互いの顔を見合わせ、深いため息をつく。
「女の子ってさぁ、あっという間に大人っぽくなっちゃうんだな……」
「……そんなんじゃなくて…」
“梨佳じゃない”という確信はあるのに、常識が、続くはずの言葉を詰まらせる。
そんな加奈子の様子に気づくこともなく、高橋は大きく背伸びすると、そのまま天井を仰ぎ見た。
“手を放すな”とは、言った。
けれど、違う道を選んだこの二人の状況が、梨佳の言うとおり大河の納得するところなのだとしたら、もう、誰にも成す術がない。
少なくとも、梨佳は冷静に対応しているように思える。
泉美の件にしてもそうだ。
心臓も今のところ特に問題はない。
「……心配なのは大河のほうだなぁ…」
高橋の迂闊な呟きに、
ガタンッ!!
加奈子が高橋の座っている椅子に足をかけ、そのまま力いっぱい押し蹴った。
「そうじゃないっ!」
危うく椅子から落ちそうになりながら、高橋がみた加奈子の表情は、その乱暴な行動とは真逆の不安気なものだった。
まだ、高橋にはわからない。
その表情の意味を高橋が理解するのは、加奈子の不安が現実になる、そう遠くない未来。