神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
ここ藤沢医科大学付属病院は、小児循環器疾患の治療において、もともとかなりの知名度を持っている。
特に小児循環器外科は有名で、未成年者の心臓移植についての研究や実績に評価が高い。

近年、その実力を知らしめたのは、梨佳の症例だろう。

奇妙なほど順調な、完璧な成功例。
術後これほどトラブルなく回復するなんて、いったい誰が想像できただろう。

術前の梨佳の状態を考えれば、手術が成功したこと自体が奇跡に近い。

まして学校生活を送れるようになるなんて、
しかもたったの2ヶ月だ。


「ホント、大河は特別だよなぁ~」


頬杖をつきながら、ニヤニヤと次の言葉を待つこのいい大人を、
大河は半ば諦め気味に、そして面倒くさそうに見下ろした。


「俺の診察はいらねぇよ、先生」

「当たり前だ。…っていうかさぁ、梨佳ちゃんの制服姿カワイイなぁ~、心配じゃないの?お前。あれは高校でもモテるだろ」

「……知らね。学校では、あんま会わねぇし…」

「ああ、そうか大河は先輩になんのか」

「…うん」


大河は今年高校3年生だ。
対して梨佳は高校に入学したばかり。
同い年とはいえ病気でほとんど学校に行っていない梨佳とは学年が違う。


――男っぽくなっちゃって……


梨佳とともに、大河のことを歳のはなれた弟のようにかわいがり、その成長を見守ってきた高橋を、大河もまた兄のように慕っていた。


「梨佳、マジで大丈夫?」

「今のところ気になるところはなかったなぁ、でも……」

「…でも?」

「……」


一瞬の沈黙。


目の前の高橋の顔が、ふと医者としてのそれに変わったとき、
大河は彼を見つめたまま顎を引き、ゆっくりと息を止めた。

< 8 / 62 >

この作品をシェア

pagetop