一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
2章
発売から3週間。
サイン会の整理券付きの豊沢社長の本は、面白いほどよく売れる。

「私はもう読んだから、良かった佐々木さんもどうぞ。」
と設楽さんが渡してくれた本を片手に休憩に入った。

設楽さんのあの含みがあるような笑い・・・
きっと、私が社長を気にしてると勘違いしている気がする。

”豊沢 彬のワークライフバランス”と名づけられたその本は、
敏腕社長のプライベートに迫る!という副題がついていて、
企業戦略やマーケティング方を伝授するようなものではなく、社長の日々の生活についてフォーカスしているもので、確かにこれならビジネスに関わっていない人でも読みやすそうだ。

パラパラとページを繰ると、とあるワードが目に飛び込んできた。

’図書館’

心が熱くなり、そのページをざっと眺める。
インタビュワーとの対談方式で綴られている個所だった。

―「高校時代は毎週のように図書館へ通って勉強していました。」
―「図書館?」
―「そうです。公共の図書館。」
―「へぇえー。ご実家の立派な書斎の方が落ち着けそうな気がしますけど・・・。」
―「実は、映画に憧れてたんです。中学生の男女が、図書館で出会うラブストーリー。
  僕も出会いを求めて図書館に通ってました(笑)」
―「(笑) まさかそんな過去があったなんて、衝撃ですね。」
―「可愛いでしょ、高校生の時の僕(笑)」
―「ちなみに、そこで運命の相手には出会えたんですか?」
―「さぁ、ご想像にお任せします(笑)」


あの時は、恥ずかしいけど・・なんて言っていたのに。
こうやって、本に書いて笑い話にしちゃうんだ。

私の心の中に、大切に大切にしまい込んでいた思い出が
世間に引っ張り出され、晒され、
笑いを誘ってるんだ。

やり場のない怒りと
悲しみがこみ上げてきて、本を閉じた。

もう読みたくない。
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