一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
サイン会は店舗の一画を使い、普通の長テーブルを設置するだけという非常に簡素なもの。
どうやら本人の希望なのだそう。
パイプ椅子ではなく、会議室にあるような椅子を調達してきたのはやはり、豊沢社長だからという配慮だろう。
13時開始だが、開店と同時に並ぶ人も少なくはなかった。
お客さんは圧倒的に女性がほとんど、たまに男性がちらほら、という感じ。
女性は主婦世代、男性は高齢の方が多い。
予定通りに開始し、滞りなく進んでいく。
社長は終始にこやかで、握手や質問にも丁寧に応じていた。
社長の脇には秘書さんが控えていて、お客さんの邪魔にならない程度に離れたところにはスーツ姿のボディーガードも構えている。
お客さんの誘導は、出版社の2人がやってくれているので、正直私は手持無沙汰。
数回、テーブルの上のグラスの水を交換しに行った。
店内は乾燥しているし、社長もずっと喋っている状態。さすがに喉も乾くよね。
社長は私に目を合わせて「ありがとう」と笑顔を向けてくれた。
その度に、息が止まりそうなくらいどきんとしてしまい、きっと顔も赤くなっていたはず。
でもその笑顔は、他のお客さんたちに向けているのと同じもの。
営業用であって、何の意味も無い。
分かっているけれど、
彼に笑顔を向けられる度に嬉しくなる私がいて、
同時に寂しくなる私がいた。
あの時の、紗良です、と言ってみたい衝動に駆られながらも、
彼が私のことを覚えていなかったらと考えると怖くてできない。
思い出は綺麗なまま残しておきたい。
悲しい出来事を上書きする必要はない。
どうやら本人の希望なのだそう。
パイプ椅子ではなく、会議室にあるような椅子を調達してきたのはやはり、豊沢社長だからという配慮だろう。
13時開始だが、開店と同時に並ぶ人も少なくはなかった。
お客さんは圧倒的に女性がほとんど、たまに男性がちらほら、という感じ。
女性は主婦世代、男性は高齢の方が多い。
予定通りに開始し、滞りなく進んでいく。
社長は終始にこやかで、握手や質問にも丁寧に応じていた。
社長の脇には秘書さんが控えていて、お客さんの邪魔にならない程度に離れたところにはスーツ姿のボディーガードも構えている。
お客さんの誘導は、出版社の2人がやってくれているので、正直私は手持無沙汰。
数回、テーブルの上のグラスの水を交換しに行った。
店内は乾燥しているし、社長もずっと喋っている状態。さすがに喉も乾くよね。
社長は私に目を合わせて「ありがとう」と笑顔を向けてくれた。
その度に、息が止まりそうなくらいどきんとしてしまい、きっと顔も赤くなっていたはず。
でもその笑顔は、他のお客さんたちに向けているのと同じもの。
営業用であって、何の意味も無い。
分かっているけれど、
彼に笑顔を向けられる度に嬉しくなる私がいて、
同時に寂しくなる私がいた。
あの時の、紗良です、と言ってみたい衝動に駆られながらも、
彼が私のことを覚えていなかったらと考えると怖くてできない。
思い出は綺麗なまま残しておきたい。
悲しい出来事を上書きする必要はない。