一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
2時間かけてサイン会は終了。
あんなに1人1人のお客さんにゆっくり対応していて時間は足りるのかと、せっかちな私はやきもきしてしまったが、どうやら計算通りだったみたい。
この後もスケジュールはびっしりなのだろう。
秘書さんやボディーガードを伴ってバックルームへ向かっていく。

バックルームは従業員用通路に繋がっていて、ここから業務用エレベーターで直接従業員用入り口に抜けられる。
来る時にも通ったルートなので、皆本棚の中を迷うことなく進んでいる。
私のまた、何となくその後ろに付いていく。
行かなくても良い気がしたけど、一応は担当だから、何となく。

バックルームに入った途端、社長は
「すぐに行くから。」
とそこに留まり、秘書さん、出版社の2人、そしてボディーガードさえも先に従業員用通路に出て行ってしまった。
まるで打合せでもしてあったかのように、一瞬の出来事で、
気づいたときには、この部屋にいるのは社長と私だけ、という状況だった。

「・・・・・え?」

店内の喧騒がしっかり聞こえてくるのに、
壁一枚隔てただけで、
この部屋の空気はまるで別世界のように感じられた。

状況が掴めぬまま立ち尽くす私に
つかつかと近寄ってきた彼によって
壁際に閉じ込められた。

「久しぶりだなぁ、紗良。」
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