一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
「あ、あの、人違いではないでしょうか・・・・?」

なんて、彼には全く通用しないような的外れな言葉が口をついて出た。

私のことを覚えててくれた、
そして今の私のことを、あの11年前の紗良だとわかってくれたんだ、という嬉しさがこみ上げてくる一方で、
あの彬くんだとは思えないような、違和感だらけの彼を前にして
混乱している。


「そんなはず無いだろう、紗良。
俺のことを、忘れたとは言わせない。」


強いまなざしに射貫かれ、思わず目を逸らし下を向く。

今目を合わせたら、一気にこの豊沢社長の魅力に捕らわれてしまうのは確実だ。
閉ざそうとする私の心の中に、あっさりと入り込んでくる。

私の戸惑いを感じ取ったのか、社長は壁から、というか私から離れて
数歩下がった。

「恥ずかしくなると目を逸らすところ、変わってないな。」

不意を突かれ顔を上げた瞬間、社長と目が合ってしまった。

「会いたかったよ、紗良。」

豊沢社長の目つきが優しくなり
あ、彬くんの瞳だ、なんて心が熱くなった。
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