一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
頭が真っ白、とはまさにこういう状態のことだと思う。

食事に誘われた時点で、きっと何らかの下心があり、
口説かれそうな気配もあったんだけど。

結婚前提、って言ったよね?

思い出を汚したくなくて、
傷つきたくなくて、

近づきすぎないように、
壁を越えないようにと、

彬くんに抱いている感情を必死で抑えているにも関わらず
それをあっさりと乗り越えてきてしまう、彼。

でも、違う。

いつのころからか夢見ていた、彬くんからのプロポーズのはずなのに。
彼は豊沢社長であって、彬くんではない。

「勿体ないお言葉ですが、お断りします。」

「俺のことは嫌いか?」

やや怒りを含んだ、冷たい瞳だけれども、
そこに悲しみがにじんでいることに、気づいてしまった。

それは間違いなく、彬くんの瞳であって。
11年前、最後に会った日に
”僕のこと、好き?”
と聞いてきた、あの彬くんの瞳だった。


私が、彬くんのことを好きだって、知ってるくせに。
ずるい。

彼のことを嫌いだなんて言えないことを、分かっているくせに。
ずるい。
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