一途な2人 ~強がり彼氏と強情彼女~
ちっ、と舌打ちをして食卓テーブルに向かっていた社長の後姿を見送りながら呼吸を整える。
助かった。

石田さんはそのままキッチンに戻って、調理に使った包丁やフライパンを片づけている。
私の方を、あえて見ないようにしてくれているみたいで
それがとてもありがたい。

顔どころか、全身が火照っている。
髪もぐちゃぐちゃ。

食事中の社長は無言で
片づける石田さんも無言。

大富豪でも、普通に家でご飯食べるんだ、なんてあっけに取られていたのもつかの間、
だんだんと、居心地が悪くなってくる。

視界の隅の方で、
社長と石田さんが、なにやら目で会話をしているのが見える。

社長と秘書ってだけあって、以心伝心なのだろうか?
私には聞かせたくない話ってこと?

帰りたい。
もう終電は過ぎてしまっているけど、石田さんにお願いしたら送ってもらえるかな。

頼んでみようと、キッチンに目を向けると、

「紗良さん、今日はもう遅いし、泊まっていかれたらいいわ。」

神の一声は、もう聞けなかった。
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