臆病な背中で恋をした
「何なら俺が手ほどきしてやってもいいぞ」

 社長がわたしを横目で見やって口角を上げた。
 手ほどき・・・って何の? 素朴な疑問。

「明里に男を教えてやってもいいって話だ」

「〇△※&#□・・・ッ?!」

 言われた意味を脳がやっと飲み込んで、むせそうになった。

「いえっ、あのっ大丈夫です・・・っっ、亮ちゃんがいるのでっっ」

 自分でもよく分からないで必死に口走ってる。

「・・・だそうだが亮。お前、明里にちゃんと教えてやれ?」

 今度は亮ちゃんがむせた。

「・・・いえ俺は」

「俺に横取りされても知らねぇぞ?」

「・・・・・・勘弁してくれませんか」

 愉しそうな真下社長とは裏腹に、苦虫を噛み潰したような顔の亮ちゃん。
 涼し気な笑みが畳みかける。

「お前は考えすぎなんだよ、ガキだねぇ」



 亮ちゃんは。そのあと一度もわたしと目を合わせようとはしなかった。ただ何となく。・・・本当に何となくだけど。再会してから宙に浮かんだきりの、亮ちゃんとの距離が少しだけ縮まった気もする。

 真下社長のこともちょっとだけ。変な気取りがなくて、表裏もあまり感じない。でもどこか、人を気圧す空気感を常に纏っていて。侮ったら怖いひと。・・・不意にそう思えた。




 結局、社長にご馳走になり。行きつけらしいバーの前で社長だけ車を降りた。

「今度は違う店に連れて行くから、懲りずに付き合えよ?、明里」

 降りる直前、わたしの頭をポンポンと軽く撫で、まるで自然な所作のように額にキスをされて。目を瞬かせてる間に、颯爽とドアの向こうに消えていった。
 
「亮ちゃぁん・・・・・・」

 2人残された車内。もう色々とキャパオーバーで、目をうるうるさせてたら。

「・・・泣くな明里。あとで消毒してやる」

 心底うんざりした声で大きな溜め息が聴こえ。亮ちゃんは車を発進させた。




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