臆病な背中で恋をした
「今日は遅かったんだな、明里」

 リビングに入って行くと、お風呂も終わってスェット姿のナオが、ソファに寝転びながらわたしを迎えた。

 時間は10時半過ぎ。お父さんはもう夢の中だけど、社会人の帰宅時間としては遅いってこともないとは思う。初野さん達にゴハンを誘われた時でも9時頃には帰って来てるから、普段はそれくらいに帰るナオには、余計そう思えたのかも知れなかった。
 
「あーうん。会社の人と食べてきて、車で送ってもらったから」

「車? 男かよ」

「まあ」

「ふーん」

 怪訝そうな顔。嘘はすぐ見抜かれるから、嘘じゃない事実を言った。 

「風呂、冷めちゃってるから追い炊きした方がいいぞ?」

「はーい」

 ナオの方がお兄さんみたいに。でもいつもこんな感じだ。
 部屋に上がる前にバスルームに寄ろうと、リビングを出かかって。

「明里」

 不意に呼び止められた。

「んー?」

「メシに誘う男は下心しかねぇからな? あんまりホイホイ付いてくな」

 思わず目を丸くする。
 訂正。・・・お兄さんじゃなくて、“お父さん”だった。 

「下心・・・は無いって思う。けど」

 口の中でもごもご。
 ・・・亮ちゃんは、きっとそんなんじゃないって思うし。

 バスケットやらサッカーやら、大学まで何かしらのスポーツを続けてきたたナオは、がっしりと体格のいい長身を勢いよく起き上がらせる。
 でんと構えるように座り直すと、まだ乾ききってない短めの髪を掻き上げるようにして、大仰な溜め息を吐いた。
 
「下心の無いヤローなんか、この世にいるわけねぇだろ。・・・ったく」

 ・・・・・・そうなの?
 
「とにかく。そいつと付き合いたいなら先に連れて来い。でなきゃ明里なんか、騙されて捨てられんのがオチだからな?」

 すごい言われよう。ナオの過保護は今に始まったことじゃないけど。ユカにはこんなに口うるさくなかったのに。・・・わたしのほうがお姉ちゃんなのにぃ。
 なんかちょっと納得いかないけど、ナオには逆らわないのが一番。

「付き合うとかじゃない気もするし・・・大丈夫、心配ないってば」

 笑ってみせた。
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