臆病な背中で恋をした
「明里の“大丈夫”が一番信用できねぇから言ってんだよ。第一なぁ」

「あっ先にお風呂入ってから、ゆっくり聴くねー」

 呆れ顔で始まりそうなお説教を寸でのところで回避。

 急いで追い炊きのスイッチを入れ、2階の自分の部屋に上がって着替えを用意する。
 あれ以上続けられたら、色々と今日のこともツッコまれて変に勘繰られかねない。亮ちゃんのことはまだナオには話せないから。ベッドの上にすとんと腰を下ろして溜め息ひとつ。

 さっきまで亮ちゃんといたのが夢みたい。頭を撫でられた掌の感触。・・・触れ合った唇。思い出すだけで胸がきゅっとなる。どきどきして苦しくて・・・こんなの初めてなの、亮ちゃん・・・・・・。
 泣きたくなるぐらい切なくて。もっとずっと亮ちゃんと一緒にいたかった。・・・もう会いたい。また会ってくれるの・・・? 

 次の約束も・・・連絡先も、何も残してくれなかった亮ちゃん。
 好きって言われたわけじゃない。・・・・・・恋人でもない。
 まだ“妹”? 本当はわたしをどう思って。

 惑い。不安。怖れ。期待。希望。
 綯(な)い交ぜになった気持ちがいっぱいになって自分を覆いつくす。

 たぶん亮ちゃんの気持ちは、わたしとは違う・・・。溢れ返りそうになるものを押し留めるように、深く呼吸を逃す。

 亮ちゃんがわたしを見つめる眼差しには。淡い熱でもない、見通せないナニかが宿って見えていた。・・・から。
 
   



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