臆病な背中で恋をした
 そして金曜の夜。総勢約30名の忘年会が、駅の繁華街の、とある居酒屋でスタートした。半分貸し切り状態で。
 6人掛けと4人掛けのテーブル席を合わせて6つリザーブしてあって、席順はくじ引き。案の定、初野さんとも三好さんとも別れ別れになった。

 事業部の統括部長が乾杯の音頭を取り、あとは好きにって感じだ。お料理は宴会コースで勝手に運ばれるから、飲み放題の飲み物だけ各自で注文するスタイルだった。
 わたしは不幸にも4人席で、自分以外は全員男性。しかも別の課の人達で全くの見ず知らず。・・・・・・うわーん。

「じゃあまず自己紹介から行きますか!」

 向かいの、ちょっと垂れ目の社員さんが明るく盛り上げる。

「コンサルティング課の嶋野大樹(しまの だいき)、入社2年目っス」

「同じくコンサルティング課の北沢(きたざわ)。4年目・・・だったか?」

 その隣りの真面目そうな社員さんは、愛想はあんまりナシ。

「マーケの津田一弘(つだ かずひろ)、いちおう創立からかな」

 わたしの隣りの人がこっちを見ながら言った。
 最後に回った順番。

「マネージメント課の手塚です。あの、9月に中途入社したばかりです。宜しくおねがいします・・・っ」
 
「知ってる知ってる。けっこうカワイイ子が入ったって噂されてた」

 嶋野さんがおしぼりで手を拭きながら、冷やかすように笑う。

「コンサは、きっついお姉さんが多いからさぁ。手塚さんみたいな子に来てほしかったんだよねー」

 課名を略して砕けた会話をする嶋野さん。北沢さんが、ぼそっと返す。

「・・・お前それ、きつい本人の前で言ってみ」

「いやまだ死にたくないんで!」

 あっけらかんと笑い飛ばしてるのが可笑しくて。つい吹き出した。

「お、やっと笑った。ンな緊張しなくていーよ?、手塚ちゃん。下の名前はなんて言うの?」

「あかり、です。明るいに里って書くんですけど」

「あかりちゃんか。カワイイね!」

 ・・・悪い人じゃないのは分かるけど軽そうだなぁ。内心で苦笑い。

 そのあと来た飲み物でまた乾杯をして。料理をつまみながら、嶋野さんにだけ色々と質問攻めにされた。
 こういうのってどこも変わらないなぁ。新人が受ける洗礼だと諦めて適当に誤魔化しつつ、愛想を振り向けたのだった。
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