臆病な背中で恋をした
「その覚悟もない女が・・・男に簡単に『会いたい』なんて口にするな」

 今まで見たことがない、知らない男のひとを間近にしたように。
 その時の衝撃は。たぶん、未知との遭遇に近かったと思う。
 怖いとか、そういうんじゃなく。
 わたしと亮ちゃんを隔てた、時間の流れが圧倒的だったことへの衝撃。

 確かにわたしの中で、亮ちゃんはあの頃のまま時間を止めていて。面倒見のいい、頼りになる大好きなお兄ちゃんでしかない。いつでも手を引いてくれて、傍で守ってくれるカッコイイ騎士みたいな。

 今でも変わらないと本気で思っていたわけじゃない。思い出にすがってたわけでもないけど。そうだよね。亮ちゃんには亮ちゃんの時間が流れて、ここにいる。わたしが思ってる“亮ちゃん”は残像。

 目の前にいる亮ちゃんが・・・本当の亮ちゃんなんだ。昔を重ねて勝手に何かを期待して、勝手に浸るなんて。違うはずだよね。

 だったらわたしも。もうコドモじゃないの。

 あの頃みたいに、ただ亮ちゃんにくっついて回ってた明里じゃないの。

 ひとりの・・・女なの、亮ちゃん。

 
 わたしは真っ直ぐに亮ちゃんを見つめ返した。

「・・・覚悟はあるから。わたしを恋人にして、・・・亮ちゃん」
 



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