臆病な背中で恋をした
『・・・恋人にして』
そう告白した時、亮ちゃんは。全ての動きを止めてわたしを凝視した。何も見通せない感情を消した眸。逸らした瞬間だけ、僅かに揺れたように見えた。
そのまま押し黙り、重く口を開いた亮ちゃんが言った言葉は。
『・・・・・・後悔するぞ』
・・・だった。
そんなことないと必死に首を横に振ったわたしに細めて見せた眼差しは、どこか苦そうに張り詰めた気配も感じた。
『軽い気持ちで言ってるんじゃないの。・・・今の亮ちゃんの傍にいたいの』
妹としてじゃなく好きなの。
そう続けようとしたのを、冷ややかに遮られた。
『俺が言う条件を呑めるなら・・・明里の好きにすればいい』
『条件・・・?』
亮ちゃんはまるで取り引きか何かのような言い様をした。
最初に言われたとおり、おばさん達にもナオ達にも黙っていること。
社内に決して漏らさないこと。
社長の前では、これまで通り幼馴染のまま振る舞うこと。それから。
『俺は女に連絡先は教えない。・・・明里でもだ』
声が聴きたいって思っても。逢いたいって思っても。わたしからは何も出来ない。いつ逢えるか、約束すら。これを恋人関係だって思える人間が、世の中にどれくらいいるだろう。
そんなの無理って諦めさせたいの、亮ちゃんは。
締め付けられた心臓が脈打ってズキズキと痛んだ。
どうしてそんな風に、わざと突き放そうとするのか。
もう昔の亮ちゃんじゃないから?
好きじゃないなら、はっきり言えば済むのに?
なにか。上手く言えないけど、分からないけど。ここで亮ちゃんの手を離したらいけない気がした。わたしが掴まえていないとダメな気がした。・・・直感だった。だから。
『・・・・・・うん、分かった。・・・必ず守るね』
わたしが淡く微笑んで見せたのを、亮ちゃんは目を見張り。
顔を背けて『好きにしろ』と低く呟いたきり、何も言わなくなった。
車から降りて歩き出し、一度振り返った。
亮ちゃんは運転席から動かなかったけど、わたしが家に入るまで車は停まったままだった。
冷たい小雨はいつの間にか。止んでいた。