臆病な背中で恋をした






 三元日が明けて。今日は、ヒマだったら会わないかと連絡をくれた大学時代の友達の一人、松井梓(まつい あづさ)と、大きめのショッピングビルが直結した駅のコンコースで、待ち合わせをしていた。

「明里ー、久しぶり~」

「梓も元気そうだねー」
 
 卒業して大手の製紙会社に入社した彼女は、新製品の開発部門で頑張っているらしい。
 目鼻立ちがはっきりした美人で、それこそ化粧品メーカーの販売員あたりが似合いそうなのに、研究棟に籠る毎日なんだとか。それでもやり甲斐がある、と活き活きして見える。
 
 会うのは多分2年ぶりくらい。
 ビュッフェスタイルのレストランでランチをしながら、仕事が忙しいあまり、3年続いた彼氏と別れたとあっけらかんと申告された。

「まあそのうち両立できそうな人、見つけるわ」

「大丈夫、梓なら!」

「そんなに結婚も焦ってないのよねー。明里はどうなの? 彼氏できた?」

 ぶんぶんと首を横に振る。

「明里はマイペースだもんねぇ。大学の時も、口説かれてても気が付いてなかったりとかね~。今もそうなんじゃないのぉ?」

 笑顔を弾けさせる彼女。

「えぇとでも・・・好きな人はできたみたい」

 わたしが小首を傾げて見せると、目を丸くされた。

「そうなの?! ・・・ていうか、それ、ちゃんとした人?! お金くれとか言われてない?!」

 それって・・・結婚詐欺とかいうヤツだよね?

「明里はちょっとぽやんとしてるからすぐ騙されちゃいそうだし、心配なのよねぇ!」

 なんか、またナオと同じこと言われてる。

「わたしってそんなにトロそうに見える?」

「見える!」

 ・・・うわーん、即答された。
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