臆病な背中で恋をした
「で、どんな人?」

 魚のフリッターを口の中に放り込み、梓が興味津々で訊いてくる。

「・・・えぇとね。すごくモテて仕事も出来て、ちょっと冷たく見えるけど、そうじゃないっていうか。なんでも出来る人だけど・・・傍にいてあげたいかなぁって」

 トマトソースが絡んだペンネをつつきながら説明する。
 梓は、ちょっと眉根を寄せて怪訝そうに。

「もしかして同じ会社の人? 上司とか?」

「うーんと社長秘書?」

 亮ちゃんのことは伏せて。

「秘書?! 女子社員がみんなで狙ってる系?」

「人気はあるみたいだけど、近寄りがたいって」

「なんか、ずい分ハードル高そうねぇ?」

「・・・どっちかって言うと障害物競走?」
 
 本当のことは言えないから、笑って誤魔化した。

「まあ・・・本気で好きで、一生懸命な気持ちが相手にもちゃんと伝われば、可能性は開けるって思うわよ」

 梓は茶化しもせず、真面目に答えてくれた。

「・・・いつか伝わるかなぁ」

 わたしがぽつんと呟くと。

「黙ってちゃ伝わらないわよ。気付いて欲しかったら、自分から動くしかないでしょ」

 弱気な生徒と、お尻を叩いて励ましてくれる学校の先生。
 
「明里はちょっと天然だけど、一緒にいるとホッとできるし、あたしは好きだし。その彼にも通じるといいわね」

「・・・うん。届くように頑張ってみる」

 わたしは強がりじゃなく。心の底からそう願って言った。 





 お喋りして、2人でぶらぶらウィンドゥショッピングもして。
 別れ際に梓は『とにかく、お金貸してくれって言う男だけは止めなさいよ?』ってもう一回釘を刺して、手を振った。

 ・・・・・・そこまで天然じゃないって思う。・・・わたしだって。
 
 

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