臆病な背中で恋をした
 しばらくして亮ちゃんから「腹は空いてるのか」と尋ねられて。

「えぇと、ちょっと」

「食べて帰るか。・・・・・・津田、寿司以外で任せる」

「・・・了解です」

 運転手さんとそう会話したのを聴いて、あれ?と思った。いま確か『津田』って。

「・・・津田さんて。あのマーケティング課の津田さん・・・?」

「正解」

 瞬きしながら亮ちゃんを見やったら、当の本人から返事が返った。

「先日はどうも。明けましておめでとう、手塚さん」

「あっ、はい! 明けましておめでとうございますっ」

 慌てて挨拶し返したものの。どうして亮ちゃんと津田さんが? っていうか。・・・わたし普通に亮ちゃんって呼んじゃってる気が?!
 さあっと血の気が引く。会社の人には知られないようにって、亮ちゃんとの約束・・・っっ。一言で言い表すなら、まさにムンクの『叫び』。

「あ、あのっ、津田さんっ?!」

 我に返り。前のめりになって、とにかく必死に。

「・・・っ、あの、わたしと亮ちゃん、じゃなくてっ、日下室長は別になんでもないのでっ。誤解しないでください・・・!」

「誤解はしてない。見たまんま、理解してる」

 淡々と言われて2度目のムンク。

「えぇとじゃあ、見なかったことにっ」

 パニクって自分でもよく分からないことを口走った。
 
「・・・だそうですが。日下さん・・・どうします?」

< 37 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop