臆病な背中で恋をした
 しかもものすごい鋭角なリターンに、絶体絶命のムンク三度目。
 涙目になって、瀕死寸前で亮ちゃんを振り返れば。こっちはこっちで、腕組みして小刻みに肩を揺らしながら喉の奥で笑いを噛み殺してる。
 
「・・・明里。津田は、俺の直属の部下だ。気にしなくていい」

「え・・・っ、そうなの?!」

「まあ・・・そういうことだから」

 面白がっているような気配も感じて、津田さんがしれっと言った。

 よ。・・・かったぁ・・・・・・。
 心底ほっとして。背もたれに寄りかかり、安堵の吐息を漏らすと。和らいだ眼差しの亮ちゃんがわたしの頭を撫でた。

「・・・何かあった時は、津田を連絡係に使う。必要なら明里も津田に伝えればいい」

「・・・うん」


 何も亮ちゃんと繋がっていられるものが無いって、心細くてしょうがなかった。亮ちゃんが少しでも何かを思って言ってくれたのなら、すごく嬉しい。ココロが一息に掬われて、ほんわり温かくなる。


 奇跡が起こったみたいにこんな風に突然、亮ちゃんに逢えたり。今年の運をこれで使い果たしちゃったとしても構わない。

 これから・・・わたしと亮ちゃんはどうなってくだろう。未知の未来。
 分かっているのは。
 普通の恋人同士みたいな、浮かれた関係とは違うっていう現実。

 まだ宙に浮いたきりの、わたし達の距離。どんなに時間が掛かっても壊さないように慎重に。縮めていければそれでいい。どこかガラス細工のように脆い気がして、触れ方を間違えちゃいけない気がする。
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