臆病な背中で恋をした
 思いがけず亮ちゃんに逢えて、津田さんと3人でゴハンまで食べ。妙な感じがしなくもなかったけど、一緒にいられただけで十分すぎる。
 言ってくれた通り津田さんの連絡先を教えられ、スマホのアドレスにちゃんと追加した。

 家の近くまで送ってもらい、いつもの公園よりも手前で津田さんに車を停めさせた亮ちゃんは、そこからわたしと少し歩いてくれた。

「・・・明里」

「なに・・・?」

 立ち止まってこっちを見下ろす眼差しにはやっぱり、見通せない何かが宿って見えた。

「・・・・・・もしもこの先。俺が会社を辞めろと言ったら・・・明里は聞き分けてくれるな?」
 
 一瞬。息が止まった。
 耳を疑って。脳が無慈悲に意味を飲み込む。

 どうして突然そんなことを言うのか。全く分からずに混乱する。見開いた目を歪めて、大きく首を横に振った。

 だってそうしたら。唯一亮ちゃんに繋がってる糸が切れちゃう・・・!

「・・・ッ・・・いやっ、亮ちゃんの傍にいさせてお願い・・・っっ」

 黒いコートの胸元にすがりついて顔を埋める。

「・・・いつか後悔するだけだと言ったはずだ」

「離れちゃうほうが絶対に後悔する・・・ッ」

 わたしは全身で振り絞るように小さく叫んでいた。
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