臆病な背中で恋をした
「・・・こんなところに居たのか」

 どのくらい経ってからか。スマホの画面に見入っていたら間近で声がして、はっと顔を上げた。目の前にいたのは紺色のスーツを着た津田さん。

「あっお疲れさまです・・・! こ」

 この間はありがとうございました、と思わず言いかけて、自分で自分の口を慌てて塞ぐ。

「何してる、こんな隅っこで」

 津田さんは言いながら同じように壁にもたれ、わたしの横に立つ。

「えぇと課の先輩達とはぐれちゃったんですけど、他に知ってる人もいないので、ここで大人しくしてました」

「・・・あ、そう」

「はい」

 気のない返事で、でも立ち去るわけでもなく。わたしは視線を傾げて、素朴な疑問を投げかける。 

「津田さんはここで何をしてるんですか?」

「・・・・・・小動物のお守り」

「はい??」

「あんたの面倒見ろって上司命令」

 亮ちゃんが? 気にしてくれたんだって、嬉しさのあまり破顔。
 すると俳優の誰かに似てるなぁって思う、割りとシュッとした顔が呆れたようにげんなりしていた。そして溜め息。

「・・・まあこれも給料のウチだからな」

「?」

 首を捻る。
 わたしとお給料になにかの関係が??
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