臆病な背中で恋をした
「そういう事で。・・・じゃあ失礼します」

 挨拶なんだか良く分からない会話を交わし、津田さんは軽く会釈してあっさりその場を後にしようとした。

「ああ津田。預り物はきっちり本人に返しておけよ?」

「・・・了解してます」

 付け足した社長にそう答え踵を返した彼を追おうと、わたしも慌ててまた頭を下げた。

「失礼します・・・っ」

「ああ。新人君もおおいに活躍してくれ。期待する」

「あ、はい。頑張りますっ」

 口角を上げ威厳も漂わせた真下社長と目が合い、ちょっと身が引き締まる思いで。取りあえず無難に済んで、ほっと息を漏らした。

「何をそんなに緊張するんだか」

 2人で壁の花に戻ったところで、津田さんに横目を向けられる。

「一緒にメシも食ったんだろ?」

「えぇとまあ・・・そうなんですけど」

 少しぎこちない笑みを返した。

「なんかこう空気が違うっていうか? 怖いわけじゃないんですけど」

 言葉にするのは難しい気もする。

「へぇ・・・。小動物の本能か」

「・・・あの。どうしてわたし、『小動物』なんでしょう?」

 どこか面白がってそうな色の眼差しで見下ろされていたから、首を傾げた。
 壁にもたれて腕組みした津田さんは。

「玩具(ペット)呼ばわりされるよりマシだろ?」

 詰まらないことを訊くな、とでも言いたげにあくびを噛み殺す。

 ・・・・・・・・・。えぇと。人間扱いじゃない前提?

< 49 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop