臆病な背中で恋をした
1-2
手塚家で一番の早起きは、溶接工歴ン十年のお父さん。次にナオ、そしてわたし。
ユカは看護師の学校を卒業して、今年の春から正看護師として病院勤務が始まった。家から通うのは大変だと寮に入ったから、ちょっとだけ寂しい。
十年前に、心不全で亡くなったお母さんも看護師で。ユカは口には出さなかったけど、同じ道を選んだのは思うところがあったんだと思う。
わたしの2つ下のナオは医療機器メーカーの営業だ。それもやっぱりお母さんの影響なんだとしたら、長女の自分はどこか立つ瀬がない。残業が少ないとか、家から遠くないとか、志望動機の本音はソンナモノだった。
「明里、トマト先に詰めるな! 肉巻き入れて冷めてから入れろって!」
料理も掃除も一番手際の良いナオは、3人分のお弁当のおかずを毎朝作ってくれている。わたしとお父さんは、それを食べたい分だけ自分のお弁当箱に詰めるだけ。
「あ、オイ、肉巻きばっか詰めるなよ親父っ」
小姑みたいなナオのお小言を二人して、『ハイハイ』って聞き流しながら。
7時半にお父さんがスクーターで出かけ、わたしとナオは8時に家を出る。駅まで15分ほどの道のりを一緒に歩いて、改札入ってお別れ。
「明里、気を付けてけよ?」
「ナオもね!」
手を振りあって別々のホームに。
11月に入って、やっと肌寒さを感じるよう。それでもコートはまだ薄手で足りる。ナオなんてスーツだけで出勤だ。
うちの会社は女子社員にはリボンタイの制服が支給されるから、通勤時の恰好は自由だし、着回しても割りと気付かれなくて助かる。
渡る風が少しだけ強い。
耳にかけたショートボブの髪が揺らされる。
電車を待ちながら。
今日は亮ちゃんに・・・会えるかな。
おみくじを引くみたいな期待を込めて。
ユカは看護師の学校を卒業して、今年の春から正看護師として病院勤務が始まった。家から通うのは大変だと寮に入ったから、ちょっとだけ寂しい。
十年前に、心不全で亡くなったお母さんも看護師で。ユカは口には出さなかったけど、同じ道を選んだのは思うところがあったんだと思う。
わたしの2つ下のナオは医療機器メーカーの営業だ。それもやっぱりお母さんの影響なんだとしたら、長女の自分はどこか立つ瀬がない。残業が少ないとか、家から遠くないとか、志望動機の本音はソンナモノだった。
「明里、トマト先に詰めるな! 肉巻き入れて冷めてから入れろって!」
料理も掃除も一番手際の良いナオは、3人分のお弁当のおかずを毎朝作ってくれている。わたしとお父さんは、それを食べたい分だけ自分のお弁当箱に詰めるだけ。
「あ、オイ、肉巻きばっか詰めるなよ親父っ」
小姑みたいなナオのお小言を二人して、『ハイハイ』って聞き流しながら。
7時半にお父さんがスクーターで出かけ、わたしとナオは8時に家を出る。駅まで15分ほどの道のりを一緒に歩いて、改札入ってお別れ。
「明里、気を付けてけよ?」
「ナオもね!」
手を振りあって別々のホームに。
11月に入って、やっと肌寒さを感じるよう。それでもコートはまだ薄手で足りる。ナオなんてスーツだけで出勤だ。
うちの会社は女子社員にはリボンタイの制服が支給されるから、通勤時の恰好は自由だし、着回しても割りと気付かれなくて助かる。
渡る風が少しだけ強い。
耳にかけたショートボブの髪が揺らされる。
電車を待ちながら。
今日は亮ちゃんに・・・会えるかな。
おみくじを引くみたいな期待を込めて。