臆病な背中で恋をした
金色のプレートに1207と、黒文字で部屋番号が刻印された客室の前で。津田さんがドアチャイムを2回、間を置いてもう1回鳴らす。
すると中からロックが外れる音がしてドアが内側に開き、上着を脱いだベスト姿の亮ちゃんが立っていた。
「・・・お届けモノです日下さん。サインは要らないんで」
わたしの頭の上に手を置いた津田さんは淡々と、今度は荷物扱い。
「悪かったな。・・・今日はもういい」
「了解です。何かあったら連絡入れてください」
「ああ」
じゃあな、と低く頭の上で呟いたのはわたしにで。
「お疲れさまです・・・っ」
肩を揺らし見る間に離れてく背中に声を掛けたけど、返事は返らなかった。
「・・・入れ明里」
「あ、・・うん」
亮ちゃんに促され、わたしの後ろで静かにドアが閉まる音がした。
スタンダードなツインの部屋。広々というわけではないけど、大きな嵌め殺しの窓際にはモダンな応接セットが置かれ、デザイナーズチックな内装は、外国からのお客を意識しているのかも知れない。
「何か飲むか?」
「えぇと、じゃあミネラルウォーター?」
亮ちゃんは備え付けの冷蔵庫からペットボトルを出して来て、窓際の丸テーブルの上に置く。
「そんなところに突っ立ってなくていい」
無遠慮に入って行くのも気が引けて、まだドアの前に立っていたわたしは、お邪魔しますと小さく独りごち、亮ちゃんの向かいのソファ椅子に腰かけた。
「・・・疲れたか」
眼差しを傾げられ、「ちょっと」と正直に。
「慣れだ」
「うん。そうだね」
笑んで見せる。
「社長も亮ちゃんも堂々と挨拶してて、やっぱり上に立つ人なんだなぁって。・・・あらためて感心しちゃった。未だに亮ちゃんと同じ会社にいるのが、信じられないぐらいの奇跡だって思うの」
だから。
「後悔だけは・・・無いって思ってる」
わたしは亮ちゃんを見つめて静かに言った。
すると中からロックが外れる音がしてドアが内側に開き、上着を脱いだベスト姿の亮ちゃんが立っていた。
「・・・お届けモノです日下さん。サインは要らないんで」
わたしの頭の上に手を置いた津田さんは淡々と、今度は荷物扱い。
「悪かったな。・・・今日はもういい」
「了解です。何かあったら連絡入れてください」
「ああ」
じゃあな、と低く頭の上で呟いたのはわたしにで。
「お疲れさまです・・・っ」
肩を揺らし見る間に離れてく背中に声を掛けたけど、返事は返らなかった。
「・・・入れ明里」
「あ、・・うん」
亮ちゃんに促され、わたしの後ろで静かにドアが閉まる音がした。
スタンダードなツインの部屋。広々というわけではないけど、大きな嵌め殺しの窓際にはモダンな応接セットが置かれ、デザイナーズチックな内装は、外国からのお客を意識しているのかも知れない。
「何か飲むか?」
「えぇと、じゃあミネラルウォーター?」
亮ちゃんは備え付けの冷蔵庫からペットボトルを出して来て、窓際の丸テーブルの上に置く。
「そんなところに突っ立ってなくていい」
無遠慮に入って行くのも気が引けて、まだドアの前に立っていたわたしは、お邪魔しますと小さく独りごち、亮ちゃんの向かいのソファ椅子に腰かけた。
「・・・疲れたか」
眼差しを傾げられ、「ちょっと」と正直に。
「慣れだ」
「うん。そうだね」
笑んで見せる。
「社長も亮ちゃんも堂々と挨拶してて、やっぱり上に立つ人なんだなぁって。・・・あらためて感心しちゃった。未だに亮ちゃんと同じ会社にいるのが、信じられないぐらいの奇跡だって思うの」
だから。
「後悔だけは・・・無いって思ってる」
わたしは亮ちゃんを見つめて静かに言った。