臆病な背中で恋をした
車がどこをどう走っているかも分からず、到着して降りたところは料亭の佇まいをしていた。暗くて良くは見えないけど、竹垣と竹林に囲まれ一見さんお断り的な老舗感が漂う。
店の名入りの掛け行灯が設えられた格子戸の門からは玉砂利の小道が伸び、飛び石が敷かれた風情ある造り。灯篭型の照明が玄関まで導いてくれ、着物姿の女性が恭しく出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいませ真下様」
「無理を言ってすまなかった、女将」
「いいえ。いつもご贔屓にしていただき有難う存じます」
艶やかな微笑みを浮かべた女将の後に続き、板張りの廊下の角を幾つも折れて。案内されたのは高級旅館の一室みたいな部屋だった。
掛け軸が掛かった床の間。生け花、雪見障子。木の節を活かした重厚な一枚板の座卓に、続き間もあるのか、わたしの後方の襖障子がぴたりと閉め切られてあった。
ほかほかのおしぼりで手を拭きながら、向かいの座椅子に胡坐をかいた社長がさらりと言う。
「ここの鯛めしが絶品なんだが、明里は魚は駄目だろう? 牛すき鍋も美味いから楽しみにしてろ」
「あ・・・はい。ありがとうございます」
深く考えずにお礼を言ってから。もしかしてと気付く。さっきの女将との会話はそういうことだった・・・? 気遣いに恐縮してしまう。
社長と2人きりなのも緊張するし、こんな一生に一度来るかどうかって、高そうな場所なのも落ち着かないし。どうしたらいいのかと途方に暮れたい気分だ。
「・・・全く明里は分かりやすい女だな。心配ないと言ったろう。隣りに津田もいる、そう気負うなよ」
ククッと笑われて思わず顔だけ後ろを振り返った。あの襖の向こうに津田さんが・・・?
そう思った途端、一気に緊張が解けた。安堵の吐息まで漏らしたわたしに、社長も大仰な溜息を吐く。
「ここまで俺に懐かないとはねぇ・・・。亮の手なずけ方には恐れ入る」
・・・・・・津田さんと言い、どうしてもわたしを小動物扱い?
店の名入りの掛け行灯が設えられた格子戸の門からは玉砂利の小道が伸び、飛び石が敷かれた風情ある造り。灯篭型の照明が玄関まで導いてくれ、着物姿の女性が恭しく出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいませ真下様」
「無理を言ってすまなかった、女将」
「いいえ。いつもご贔屓にしていただき有難う存じます」
艶やかな微笑みを浮かべた女将の後に続き、板張りの廊下の角を幾つも折れて。案内されたのは高級旅館の一室みたいな部屋だった。
掛け軸が掛かった床の間。生け花、雪見障子。木の節を活かした重厚な一枚板の座卓に、続き間もあるのか、わたしの後方の襖障子がぴたりと閉め切られてあった。
ほかほかのおしぼりで手を拭きながら、向かいの座椅子に胡坐をかいた社長がさらりと言う。
「ここの鯛めしが絶品なんだが、明里は魚は駄目だろう? 牛すき鍋も美味いから楽しみにしてろ」
「あ・・・はい。ありがとうございます」
深く考えずにお礼を言ってから。もしかしてと気付く。さっきの女将との会話はそういうことだった・・・? 気遣いに恐縮してしまう。
社長と2人きりなのも緊張するし、こんな一生に一度来るかどうかって、高そうな場所なのも落ち着かないし。どうしたらいいのかと途方に暮れたい気分だ。
「・・・全く明里は分かりやすい女だな。心配ないと言ったろう。隣りに津田もいる、そう気負うなよ」
ククッと笑われて思わず顔だけ後ろを振り返った。あの襖の向こうに津田さんが・・・?
そう思った途端、一気に緊張が解けた。安堵の吐息まで漏らしたわたしに、社長も大仰な溜息を吐く。
「ここまで俺に懐かないとはねぇ・・・。亮の手なずけ方には恐れ入る」
・・・・・・津田さんと言い、どうしてもわたしを小動物扱い?