臆病な背中で恋をした
6-2
 亮ちゃんが口にした、櫻秀会(おうしゅうかい)という名前は。時々ニュースでも耳にした。本拠地が名古屋で、全国的にかなり大きな暴力団組織。
 グランド・グローバルが、たとえばその資金源の一つなら。わたしが知った秘密は小さいことじゃない。・・・・・・そのぐらいは理解できていると思う。

 社長はわたしを気圧すように、眼差しで射抜きながら薄笑いを滲ませた。

「亮は、明里が他人に口を割ったら自分を処分しろと聞かなくてな。お前のこととなるとどうにも甘い」

 それを聴いた時。潰れるんじゃないかってぐらい、心臓がぎゅっと締め付けられて苦しくなった。
 亮ちゃん。・・・亮ちゃん、亮ちゃんっ・・・!

 もちろん誰にも言うつもりなんて無かった。全部、どんなことでも最期までお墓まで持っていくって決めてたの。
 でもちゃんとは分かってなかった。わたしが軽はずみなことをすれば、亮ちゃんが責められる。ううん、きっとそれだけじゃ済まない。どんな酷いことをされるかも知れない。
 
 亮ちゃんを守らないと。
 わたしに出来る限りの全てで。

 社長が証明しろと迫る意味を、自分なりに飲み込んで。
 わたしが、このひとに約束する。
 絶対に裏切ったりしないから、もし何かあったらその時は。
 亮ちゃんじゃなくわたしを殺してって。

 膝の上で知らず、握り締めていた両の拳にぐっと力を籠めた。
 野性味のある端正な顔立ちが、不敵そうにこっちを見据えているのを、胸の内で一つ吐息を逃して。
 
「・・・・・・わたしはどうすればいいですか」
 
 証明の仕方は相手に委ねようと思った。
 それがどんなことでも。
< 62 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop