臆病な背中で恋をした
 亮ちゃんと2人だけになって、おずおずと隣りを見上げた。
 肩を抱かれたままで、すぐ傍に相変わらず整った男らしい横顔がある。亮ちゃんもわたしに視線を傾けて、それから大きく溜め息を逃した。

「・・・寿命が縮まったぞ」

「ご・・・めんなさい・・・」

 しゅんとなって俯くと、肩に添えられていた手がわたしの頭を抱き寄せる。

「怒ってるわけじゃない。・・・読みが甘かったのは俺だ。真下さんが直接、明里に接触するとは思ってなかった」

 亮ちゃんは向き直って正面からわたしを見下ろし、片手で頬に触れた。

「悪かった。・・・俺の為にこんな真似までさせて」

 言われた途端に何だかまた涙が溢れてきて。
 自分で覚悟をしてここに居たはずなのに。やっぱり怖かったんだって。亮ちゃんを目の前にして、やっぱり亮ちゃんじゃないと嫌だったんだって。今になって押し寄せてくる感情がわたしを飲み込んでく。

 こうして来てくれたことが本当に本当に嬉しくて。それだけでもう十分、報われた気持ちがして。シアワセだった。泣けるぐらいに。

「明里だけは・・・俺が守ってやると決めたのにな」
 
 指で目尻を優しく拭ってくれながら、亮ちゃんは遠い眼差しで見つめる。

「・・・亮ちゃん・・・・・・」

「あれほど、『こっち側』には来るなと言っただろう」

「ごめ・・・なさい。・・・でも」

 涙声で縋(すが)るように言いかけたのを、涙を拭った指が止めるように遮った。

「・・・明里は昔から俺の後ろばかり付いて来て、帰れと言っても離れようとしない。・・・本当に変わらないな、お前は」

 ふっと切なげに笑みを過ぎらせた顔が近付き、口許に吐息を感じた。

 最初は触れるだけ。啄むように何度もなぞられ、やがてその舌先がやんわり唇を割った。社長にされた時とは天地くらい違う感覚。胸の奥がきゅんとして、なんかもう。何をされてもいいって。して欲しいのか、したいのか、自分のナカで粟立つナニかを抑えきれない。

「・・・んっ、・・・ぅン・・・ッ」

 塞がれた口からくぐもって勝手に漏れ出る声。亮ちゃんの舌に翻弄されてるうちに、気が付いたらベッドの上に仰向けに倒されていて。覆い被さる亮ちゃんに両頬を掌で包むように掴まえられ、口の中を無尽蔵に貪られ続ける。

 やっと離されて薄く目を開ければ、間近に大好きなひとの顔があった。
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