臆病な背中で恋をした
 初野さん達の話を聴いていて分かったこと。

 社長も亮ちゃんも独身で、特定の女性関係は無いらしいこと。2人とも週に2日3日くらいしか社に顔を出さないこと。普段の職務の決定権は、各部署の部長クラスにおおよそ任されていること。最終的な決裁以外、社長はあまり口出しをしないこと。副社長や専務の役職を置かないのは、現場重視で無用な権力は排除するポリシーなこと。

 ・・・なんて言うかすごく“男前”な社長だなって。そんな印象。
 設立してまだ5年の、若くて大きくはない会社だけど、亮ちゃんは立ち上げからずっと関わってきたらしいから社長の信頼も厚いんだろう。

 秀才ってわけじゃなくても、昔から成績も良くて運動も出来て。ちょっとのんびり屋のわたしの手を、亮ちゃんはいつも引いてくれてた。

 亮ちゃんが家を出てから、時々思い出して寂しくなったりもした。きっと今頃どこかで、頑張ってるんだろうなって。あたしも頑張ろうって自分をそう励まして。

 あたしにとって亮ちゃんは、遠く離れてても変わらない“家族”みたいなもので。ウルトラの母になって見守っててくれてるはずのお母さんと同じ。
 
 だからまさか、こんな風に再会できるなんて。運命の神サマには感謝しかないって思う。
 『また会えるかなぁ』に奇跡が起きて、『また会えた!』になった。

 亮ちゃん。
 本当はね、話したいことがいっぱいあるの。会えてすっごく嬉しかったことも、学生だったナオもユカも、みんな立派に自分で道を見つけて歩いてることも。
 ・・・亮ちゃんが今までどんな風に過ごしてきたのかも。訊きたいこともいっぱいある。


 どうしておばさんやナオ達にまで、同じ会社にいるのを隠さないといけないの・・・?
 その理由を、わたしには教えられないの?

 ねぇ亮ちゃん。
 わたしはいつだって亮ちゃんの味方だから。

 ここにいるから。

 ちゃんとわたしを見て・・・亮ちゃん。



 どうしたら。
 この思いを亮ちゃんに、伝えられるんだろう。

 
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