臆病な背中で恋をした
 亮ちゃんは。時折り見せた、何も見通せないような眼差しでわたしを見つめた。しばらく黙ったままで静かに口を開く。

「・・・それは俺が言うことだろう。自分があの人に何を言ったか分かっているのか」

 わたしが社長に言ったこと。

「命と引き換えに俺を助けろなんて、口先だけで通用する相手じゃないんだぞ」

 もちろん本当にそうするつもりで言った。冗談で済む相手かどうかくらい、わたしにだって分かる。

「・・・そうならないように気を付ける。大丈夫、心配しないで」

 どんなことになっても助けるから亮ちゃんだけは。小さく微笑んで見せた。

 一瞬目を眇め、眉間に険しい気配を過ぎらせた亮ちゃんは、感情を押し殺したような声で低く。

「俺のことはいい。・・・・・・明里は、尚人や優花里(ゆかり)のことを考えろ。いいな?」

 わたしは答える代わりに、見た目よりたくましそうな亮ちゃんの肩にそっと頭を寄せた。

 どこまでも優しく。伸ばした手を振り払おうとする人。
 どこまでも深く、わたしを想ってくれてる人。

「・・・・・・亮ちゃんにまた逢えて・・・良かった」

 わたしの知らないところで、何も知らないままにならないで。

「それだけで嬉しいの・・・・・・」

 温もりに寄り添いながら。とても穏やかな気持ちで心から云えるの。
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