臆病な背中で恋をした
 亮ちゃんが身じろいだ気配にわたしは顔を上げた。目が合って。それから半身がこっちに向いて腕が伸びて来たのを、自然と身を委ねる。

 わたしに触れる時。亮ちゃんは、いつもどこか壊れものに指を伸ばすみたいに躊躇いがちだった。キスを繋げる時も舌先で探るように慎重に。

 革張りの広いソファにそのまま横たえられて。おでこ、瞼、頬、耳許、首筋、・・・あちこちに口付けされる。亮ちゃんの熱っぽい吐息に浮かされて、わたしまで何だか躰が熱を持つ。ゾクリと背筋を這う初めての感覚に、だんだん自分が自分でなくなる。

「・・・アッ、りょ、・・・ちゃ・・・ッ」

 ニットをたくし上げられ、晒された素肌にも口付けられて思わず上げた声。

「・・・・・・怖がるな。俺にぜんぶ預けて感じてればいい・・・」

 静かで優しい響きだった。

 胸を食まれているのだと分かった辺りから、脳が、波みたいに押し寄せる刺激にしびれてきて。服を脱がされていくのも、愛撫が広がっていくのも亮ちゃんにされるがままで。
 ゆっくり丁寧にわたしの躰を慣らしながら、亮ちゃんが入ってきた時。圧迫感と、めり込むような痛みしか感じなかったのが徐々に。

「明里・・・」

 切なそうに呻く亮ちゃんの声を遠くで。

 現実と夢の狭間にいるような。
 何もかも無我夢中だった気もする。

 ただ。亮ちゃんがわたしを愛おしげに呼んで。
 今も優しく抱き締めてくれているから。

 体温がとても気持ち良くて心地よくて。
 安心できて・・・すごく幸せに思えて。

 ずっとこうしてたいって言ったら。
 甘さを称えた眼差しで少し意地悪な笑みを返された。

『・・・朝まで時間はたっぷりあるからな』



 その後もベッドで少し違う慣らされ方をして。
 目が醒めた時、背中から亮ちゃんの腕がわたしの躰に巻きついていてそれが。
 ひどく・・・愛おしかった。
 



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