臆病な背中で恋をした
 食材の買い置きが出来ないから、亮ちゃんに初めてご馳走した手料理は親子丼と、里芋の煮物におひたし。だし醤油一本でどうにかなるものばかりになっちゃったけど、目を細めて美味しいって言ってくれた時は嬉しくて目が潤んだ。

 “家族”の味を憶えてて欲しいって、そんな思いも込めた。また食べたいって、いつでも言って。・・・願いも込めて。



 洗い物を済ませ、またしばらくは使わないだろうから、流し台やコンロを綺麗にしてリビングに戻ると。ソファに寝転んだシャツ姿の亮ちゃんはそのまま転寝(うたたね)をしていた。
 やっぱり疲れてたんだね。わたしが顔の前に屈んでも目を醒ます気配もない。しばらく寝かせてあげようかな。

 忍び足でソファの脇に置いた自分のバッグからスマホを取り、ラグの上に膝を立てて座り込む。マナーモードにして、ニュースや面白そうなアプリを検索してみたり。マンガが読めるアプリでつい集中しちゃってたら、いきなり後ろから腕が回されて、「ふわぁっ」と変な声が飛び出た。

「・・・何で起こさない」

 寝起きだからかちょっと憮然とした声が頭上でして、気が付いたら亮ちゃんの膝と膝の合間にすっぽり嵌まったポジションに。

「気持ちよさそうだったから?」

 躰をひねって後ろを振り返る。

「・・・全くお前は」

 溜息吐きながらも亮ちゃんの眼差しは優しげだった。

「ほら風呂に入るぞ」

「一緒に?!」

「今更なにを言ってる」

「えっ、でも・・・っ」

 ココロの準備っていうか!

「俺に洗わせろよ?」

 目を丸くしているわたしに涼し気な顔でクスリと。
 
「昔もそうしてやっただろ」

 それって小学生の頃の話だよね?!
 大人になった亮ちゃんは。甘さ控えめで何だかちょっと意地悪。 

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