臆病な背中で恋をした
 先に起きてるのかな。
 単純に思い、パジャマ代わりに貸してくれてる亮ちゃんのシャツを羽織って寝室を出る。冷んやりとした廊下。人の気配を感じない。音も無いリビングのドアを開ける。

「・・・亮ちゃん・・・?」

 ソファに座って珈琲でも飲んでるのかなって。でもそこには誰も。

「亮ちゃん?」

 呼んでも返事が返らない。

 踵を返して洗面室のドアを開く。お風呂もおトイレも、もう一つのの部屋も空(から)。

 ・・・なんでいないの。今日は土曜でお休みのはず。用があってどこかに出かけたの・・・? 何も言わずわたしを残して?
 
 ううん。そんなわけ・・・ない。妙に胸がざわつく。亮ちゃんらしくない。何かよっぽどのことでも無い限りそんなこと。
 言い様のない不安が爆発したみたいに一気に膨れ上がって。心臓が嫌な音を立ててる。

 レースカーテンから差し込む陽の光は弱く、心細さを余計に煽られた。エアコンの暖かい空気だけがわたしを包むけど。温もりは感じなくて。はぐれた迷子のように、亮ちゃんの姿を探し求める。
 そしてリビングテーブルの上にメモが置いてあるのに気付き、駆け寄って取り上げた。そこには。

 “津田に連絡すれば迎えが来る”

 それだけ書かれてあった。
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