臆病な背中で恋をした
 わたしは弾かれたように寝室に戻り、ベッドのヘッドボードに置いたままだったスマホで、津田さんに電話を掛けた。彼なら何か知っている。呼び出し音は鳴り続けるのに応答してくれない。留守番電話にもならなくて、仕方なく切る。着信があれば、きっと折り返してくれるはず。

 リビングに戻ってソファに座り、スマホを握ったままでじっと身動ぎもしないで。しばらくそうしていたけど、沈黙を続ける唯一の手がかりに深く溜め息を逃す。

 不安を掻き消せないまま。頭を巡らせて考えてみた。 
 亮ちゃんが津田さんに迎えを頼めと言うのなら、少なくても戻るのは遅いという意味だ。もしかしたら急な仕事なのかも知れない、裏の。会社の仕事だったら、亮ちゃんが隠す必要もない気がするから。
 ここで待っていたいけど。迷惑にも邪魔にもなりたくない。いつになるかは分からなくても、きっとまた逢えるもの。

 自分にそう吹っ切ると立ち上がってバスルームへ。熱めのお湯で軽くシャワーを浴び、身支度を整えて、津田さんからの連絡を待つことにしたのだった。 

 
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