臆病な背中で恋をした
 昨日、わたしの朝食用に一緒に買ってあったカップのヨーグルトとロールパンを機械的に口の中に運ぶ。ぼんやりとテレビの音声を聞き流しながら、・・・何だか味もしなかったし、食べた気にもならなかった。
 
 これからも。こんな風に置いていかれたり、待ち続けたりすることはあるんだろう。本心はものすごく寂しくて傍にいたくて、逢いたくて泣きたい。でも我慢できないなら、亮ちゃんはわたしを突き放して何もかも赦してくれなくなる。それだけは・・・イヤ。こうしてまた逢えたのに。離れられないのに。失うのだけは絶対に。

 亮ちゃんの声も面影も、匂いも体温も。・・・掌の大きさも、指の絡め方もキスの仕方も。わたしのナカにぜんぶ残ってる。上書きされたり消えたりもしない。亮ちゃんだけを知ってればいい。

 ・・・大丈夫待ってる。それがわたしに出来ることなら。
 ソファの上で膝を抱えるように、自分で自分をきゅっと抱き締めた。



 
 それから1時間もした頃。玄関の方でガチャリと物音がして、躰が勝手にリビングから飛び出す。

「亮ちゃんっっ?」

 お帰りなさい、そう続けようとして。

「・・・残念だったな」

 ドアの内側に立っていた津田さんに目を見開き。力無く、言葉を呑むしかなかった。
< 83 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop