臆病な背中で恋をした
 呆然としているわたしには構わず、津田さんは躊躇なく靴を脱いで部屋に上がり、遅れてその後を追った。

「あんたは準備できてる?」

 彼が窓際に寄り、厚手のカーテンを30センチほど隙間を空けて閉め、途端に部屋が薄暗くなる。

「・・・はい」

「ならちょっと待ってろ。しばらく日下さんは戻らないから回収して帰る。ゴミだの小動物もな」

「え?」

 聞き間違いかと思った。亮ちゃんが・・・なに?

「戻らない・・・って。何かあったんですか・・・っ?」

 思わず声が大きくなった。津田さんはこっちを一瞥したけど何も言わずに、今度は寝室に向かう。

「津田さんっ、知ってるならちゃんと教えてください!」

「・・・言ったとおりいつ戻るか分からない。半年後か一年後か、・・・すぐ帰るのか」

 ここはカーテンを閉め切り、手際よくベッドシーツや枕カバーを外していく。掛布団や敷きパッドをマットレスの上に畳んで乗せると、彼は部屋を出て、洗面室のランドリーボックスに洗濯物を放り込んだ。
 わたしはただただ、覚束なく津田さんを追いかけるだけ。頭の中は真っ白で。どうしても脳が咀嚼できない、その言葉の意味を。
 キッチンでは冷蔵庫の中身を確かめ、ダストボックスからゴミ袋ごと引き抜いて、長期の旅行前にしておくように片付けていく。

「取りあえず邪魔だから座ってろ。・・・終わったら説明してやるよ」

 立ち竦むわたしをソファの方に押しやって、津田さんは冷めた口調で言った。
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