臆病な背中で恋をした
 いつ戻るか分からない。津田さんは確かに言った。力が抜けて崩れ落ちるようにソファに沈む。
 ・・・・・・うそ。どうして亮ちゃん。だってそんな風には。昨日だって、どこも変わらなかった・・・! 
 大きく顔が歪む。叫び出したい衝動。どこに行ったの?! どうして黙って行っちゃったの?! どうして、・・・どうして?!

「亮ちゃん・・・っっ」

 両手で顔を覆って声を振り絞る。

 朝まで一緒にいたのに。傍にいてくれたのに。ずっと優しく頭を撫でてくれてたのに。信じられなくて、信じたくなくてどうしていいか分からずに。自分が完全に亮ちゃんからはぐれてしまった絶望に、胸が潰れそうだった。

「・・・泣かせるって分かってて俺に面倒押し付けてくなよ。全く」

 うんざりした溜め息が聴こえ。隣りに乱暴に腰を下ろした気配がした。いきなり手首を強く引っ張られ、気が付けば津田さんの胸元に抱き込まれていた。

「鬱陶しいから今日で全部、泣ききっとけ。・・・日下さんを待つ気があるならな」
 
 この先どれぐらい亮ちゃんを待てばいいのか。もしも。わたしのところには二度と戻ってくれなかったら。

 不安、怖れ、孤独、痛み、苦しみ、悲しみ。大きな渦が小さな葉っぱみたいなわたしを飲み込んで、流し去ろうとする。

 いや。亮ちゃんお願い、早く帰ってきて。
 わたしからいなくならないで。 
 おねがい。
 わたしがいること忘れないで、一人にならないで。
 待ってる。何年でも待ってる。

 たとえ亮ちゃんがどんな闇に染まって帰ったとしても、わたしは構わない。一緒にいるって決めたから、変わらないから絶対に・・・!

 ココロの奥から溢れてくる想いに、堪えきれなくなって嗚咽が漏れ出た。わたしの頭の後ろを掴まえている津田さんの掌に力が籠り、彼のシャツにもっと顔を寄せるみたいに。

「・・・・・・俺がいてやるよ。・・・お前に拒否権は無いからな」

 相変わらず素っ気ない呟き。でも独りじゃないって言ってくれたのが切なくて。縋りつくように小さく声を上げ。思い切り・・・泣いた。

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