臆病な背中で恋をした
 ひとしきり泣いてやっと落ち着いたわたしに、津田さんは重そうに口を開いた。

「・・・日下さんはしばらく日本にいない。海外での足場作りってヤツだ」

 グランド・グローバルのなのかとは、わたしも訊かない。

「成り行き次第で期限は未定だからな。詳しいことは教えない」

「そう・・・です、か・・・」

 現実を受け止めるしかないって頭では理解しているつもりだけど。気持ちは整理できていない。現実味がなくて・・・感覚がぼやけている。

「・・・・・・帰って・・・来るん、ですよね・・・?」

 項垂れたまま弱弱しく。

「・・・その気があればな」

 やっぱり素っ気なく言われて、また涙が零れ落ちる。

「・・・亮ちゃ、・・・にとって、わたし、は・・・」

 なんだったんだろう。
 幼馴染の延長で妹みたいなもので、本当は亮ちゃんにはもっと大事なひとがいて。黙って消えても何とも思わないくらいの存在でしかなかった・・・?
 
 下を向き、鼻をすすり上げて何度も手の甲で涙を拭っていたら。頭の上に掌が乗せられた。

「逢いたかったのはあんたって事だろ? 少なくとも俺なら、最後にどうでもいい女を抱いたりはしない」

 そう聴いた時。時間が一気に巻き戻った。
 逢えなくなるから。・・・そう思って逢ってくれたの? 一緒にスーパーで買い物して、作ったご飯を残さずに美味しいって。それからお風呂に入って、髪を乾かしてくれたのも。
 残したかった・・・? 
 わたしにも亮ちゃんのナカにも、なにかを。
 愛してるの言葉を。

 ・・・うん。分かった亮ちゃん・・・。あんまり泣かないで待ってる、約束する。胸の奥で祈るように。

「・・・津田さん。亮ちゃんに伝えてもらえますか」

 泣き腫らした眸を上げてしっかりと微笑んでみせる。

「わたしも愛してる・・・って」

< 86 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop