臆病な背中で恋をした
 亮ちゃんの部屋を一緒に出る時。わたしは津田さんにお願いごとを言った。

「・・・あの津田さん。時々ここに来たいんですけど・・・」

 一瞬、怪訝そうな表情を向けられたけど、吐息を漏らしたあと面倒そうに返った。

「・・・好きにしろよ。鍵はあんたにも渡しとくって言ってある」

 思ってもなかった返答に驚いて目を丸くする。

「日下さんも別に何も云わなかったし、そういうことだろ」

「ありがとうございます・・・っ」

 嬉しくて、さっきまでの泣き顔はどこに行ったぐらいの、満面の笑顔で見上げたら。
 ものすごく冷めた目で呆れられたのが分かった。

 エレベーターに乗り込みながら津田さんがふと。

「・・・言っとくが、日下さんが帰るまで小動物の管理は俺に任されてる。俺の言うことは黙って何でも聴けよ?」

「あ、はい。宜しくお願いします・・・っ」
  
 ちょこんと頭を下げる。すると不自然に間が空いたから、不思議に思って顔を上げた。鳩が豆鉄砲を食ったみたいな津田さんと目が合って、地の底より深そうな溜め息を吐かれる。

「・・・・・・お前、意味分かってないよな絶対・・・」

「??」

 意味って、他になにかあるかなぁ。ねぇ亮ちゃん?
 



< 87 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop