臆病な背中で恋をした
雨に濡れた紫陽花が色鮮やかに庭先を彩り。
真っ青な空と灼熱に焦がされ。
今はどこからか、秋風に乗って金木犀の淡い薫りが。
お天気の良い日はベランダにお布団を干す。太陽をいっぱい浴び、ふかふかになったそれで眠るのが好き。
マンションの11階からの眺めは。ここに通うようになってから、変わり映えはしない。ところどころの緑が色濃くなったり、空が高くなったり。季節がいつの間にか移っていくのを、自分だけが立ち止まって見送っている気がする。
まだ半年。・・・もう半年? 何かあれば教えると言ってくれた津田さんは、一度も亮ちゃんのことを口にしなかった。
そう言えば。土日に決まって外泊するわたしを、ナオもお父さんもなんか訊きたそうな顔でいるけど。“初めての彼氏だから陰からそっと見守ってやる”感じで、やっぱり何も言って来ない。・・・ナオが大人になったなぁって、逆に感心してる。
いつものように、亮ちゃんのシャツを一枚着ただけの恰好でベッドに潜り込む。
クローゼットにはクリーニングから返ったスーツやシャツが、ハンガーに掛かったまま。借りているのは、もうわたし専用になっちゃったかなぁ・・・。
寝付きは良いほうで、その夜も気が付いたら眠りに落ちていた。でも夢を見たから少し浅かったのかも知れない。見たいと思っても、なかなか見られなかった亮ちゃんの夢。別れたあの日みたいにベッドの端に腰掛け、優しく髪を撫でてもらう夢。でも背中を向けて、横顔もぼんやりとしか。声を聴いたかもうろ覚えで。夢ってなんでこう曖昧なんだろう。
ふっと意識が冴え、差し込む光りで、そろそろ起きる時間なのかと寝返りを打ったその時。微かに何かが香った。気がした。この部屋には無い不思議な香り。ハーヴみたいな・・・もうちょっとスパイシーな、ジンジャーエールを空気に熔かしたみたいな・・・?
ヘッドボードのスマホにゆるゆると手を伸ばす。時計は7時18分を表示していた。日曜の朝にしては早起きだけどシーツも洗濯しなきゃだし。思い切ってお布団から抜け出す。
着替えて廊下に出た時は何も香らなかったし、さっきのは気のせいだと思った。
リビングのドアを開けて入った時。ふわりと同じ香りが鼻の奥をすり抜けていって。直感だった。他は別に何も変わった様子はない。カーテンがずれてるとか、物の位置が変わっているとか。でも空気が違った。どこか動いて流れた気配が残っていた。
真っ青な空と灼熱に焦がされ。
今はどこからか、秋風に乗って金木犀の淡い薫りが。
お天気の良い日はベランダにお布団を干す。太陽をいっぱい浴び、ふかふかになったそれで眠るのが好き。
マンションの11階からの眺めは。ここに通うようになってから、変わり映えはしない。ところどころの緑が色濃くなったり、空が高くなったり。季節がいつの間にか移っていくのを、自分だけが立ち止まって見送っている気がする。
まだ半年。・・・もう半年? 何かあれば教えると言ってくれた津田さんは、一度も亮ちゃんのことを口にしなかった。
そう言えば。土日に決まって外泊するわたしを、ナオもお父さんもなんか訊きたそうな顔でいるけど。“初めての彼氏だから陰からそっと見守ってやる”感じで、やっぱり何も言って来ない。・・・ナオが大人になったなぁって、逆に感心してる。
いつものように、亮ちゃんのシャツを一枚着ただけの恰好でベッドに潜り込む。
クローゼットにはクリーニングから返ったスーツやシャツが、ハンガーに掛かったまま。借りているのは、もうわたし専用になっちゃったかなぁ・・・。
寝付きは良いほうで、その夜も気が付いたら眠りに落ちていた。でも夢を見たから少し浅かったのかも知れない。見たいと思っても、なかなか見られなかった亮ちゃんの夢。別れたあの日みたいにベッドの端に腰掛け、優しく髪を撫でてもらう夢。でも背中を向けて、横顔もぼんやりとしか。声を聴いたかもうろ覚えで。夢ってなんでこう曖昧なんだろう。
ふっと意識が冴え、差し込む光りで、そろそろ起きる時間なのかと寝返りを打ったその時。微かに何かが香った。気がした。この部屋には無い不思議な香り。ハーヴみたいな・・・もうちょっとスパイシーな、ジンジャーエールを空気に熔かしたみたいな・・・?
ヘッドボードのスマホにゆるゆると手を伸ばす。時計は7時18分を表示していた。日曜の朝にしては早起きだけどシーツも洗濯しなきゃだし。思い切ってお布団から抜け出す。
着替えて廊下に出た時は何も香らなかったし、さっきのは気のせいだと思った。
リビングのドアを開けて入った時。ふわりと同じ香りが鼻の奥をすり抜けていって。直感だった。他は別に何も変わった様子はない。カーテンがずれてるとか、物の位置が変わっているとか。でも空気が違った。どこか動いて流れた気配が残っていた。