臆病な背中で恋をした
 終わったら正面玄関前で待ってるように言われて、急いで三角コーナーの掃除まで済ませ、ロッカールームに駆け込む。誘われるって分かってたら、もっとちゃんとオシャレして来たのにぃ!
 ボートネックのニットのカットソーに、フレアスカートって良くも悪くもない普通の恰好で、スーツが決まってる亮ちゃんと一緒って。残念すぎて溜め息。

 黒のビジネスシューズをモンクシューズに履き替え、エレベーターで1階まで降りる。
 正面玄関の外に出ると、路上に白の高級外車がハザードを点滅させて停車していた。恐る恐る近寄っていくと運転席から亮ちゃんが姿を見せ、後部ドアを開いてくれる。躰を屈めて乗り込もうとした瞬間。思いきり目を見開いて固まった、わたし。

「ああお疲れだったな、明里」

 後ろのシートには先客が。しかも。普通に名前で呼ばれた気がする。

「・・・しゃ、ちょう・・・?」

「いいから乗れ。今日は美味い店に連れてってやるから」

 不敵そうに口角を上げ、わたしを促した男性は。
 正真正銘、真下社長その人だった・・・・・・。
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