恋華宮廷記〜堅物皇子は幼妻を寵愛する〜
「悪かった。寄り道などするのではなかった」
飛龍は馬車の中で鳴鈴に謝った。鳴鈴の膝には、小鳥が入った鳥かごが抱かれていた。
「いいえ、悪いのは殿下に弓を引いた者たちです」
誰かが自分を狙っている。いやもしかしたら、妃の自分にではなく、飛龍自身に恨みがある者の仕業かもしれない。
敵は皇都に住んでいるのか。ここを抜けて星稜へ戻れば、平穏な日々が戻るのか。
「怖かったけど……でも、殿下と城下町を歩くことができたのは、とても楽しかったです」
ぎゅっと鳥かごを抱きしめると、緊迫した面持ちだった飛龍が息をついた。
「そうか……。全て解決したら、また外を歩こう」
「はい」
騒がしい城下町を抜け、門を通ると辺りは途端に静かになった。ガラガラと車輪が回る音ばかりが聞こえる。
二人きりの馬車の中で、飛龍がぼそりと零した。
「嫌なものだ。皇族になど産まれたくなかった」
「えっ?」
「しきたりにがんじがらめにされ、策略や争いが絶えない。異民族を戦で殺し、返ってきた嫉妬や恨みで襲われたりもする。庶民だったら、もっと楽しい人生だったかもしれないな」
珍しく後ろ向きなことを言いだした飛龍を、鳴鈴はじっと見つめた。すると、彼はふっと苦笑して鳴鈴を見つめ返す。